ドリームビット
松田 茂樹
お客様の夢や思いを形にするデザインスタジオです。今回の廃車再生プロジェクトに携わらせていただき、豊かな想像力とデジタルの創造力で、人と企業を結ぶ商品作りのお手伝いをさせていただきました。
PRODUCTS
幼い日、列車の運転席後ろで、窓ガラスに顔をくっつけるようにして、ずらり並んだ計器類を憧れの目で眺めた経験を持つ方は多いはず。あの希少な部品たちが、丁寧な木工仕事と出会って、メカニックな重厚感あふれる気象計や時計に生まれ変わりました。手が届かないと思っていた本物と暮らす喜びを、日々に。親から子へと世代を超えて語り継ぎたい逸品です。
大人の遊び心をくすぐるテーブルクロックとウェザークロックを考案したのは、定年退職後もフリーランスデザイナーとして精力的に活動を続けるドリームビットの松田茂樹さん。少年時代から自分で手を動かしてものを作るのが好きで、とくに列車の計器類には個人的な思い入れがあったといいます。
※松田さんは廃車再生プロジェクトで「タオルハンガー」も考案されています。タオルハンガーはこちらの記事でご紹介しています
松田
「中学生の頃、近所に電車の操車場があり、そこに車両のランプやナンバープレート、配電盤のパーツなどを分解して捨ててある場所があったんですね。そこへ宝探しに行って、拾って帰った部品を分解したり改造するのが当時の遊びでした。そういう経験があったからでしょうか、車両見学会では、運転席に注目していたのは僕ぐらいでしたが、 “メーターで時計をつくりたい”というアイデアは、その時すでに頭に浮かんでいました。」
松田さんが手にしたのは、運転手の正面に配置されている速度計と加圧計、そして運転席左手にある電圧計と電流計、という4つの計器。そして設計・デザインに欠かせないモックアップづくりで威力を発揮したのが、松田さんの多彩な職歴でした。
松田
「ふだんから3Dデザインには慣れていますから、大阪市高速電気軌道さんに提出する企画書の段階から、すでに360°あらゆる角度から見られる動的パースをつくっていました。筐体の素材は、金属と木で少し迷いましたが、木でいこうと決めました。インテリアになじみやすい家具調にしようと思ったことと、信州の民芸品メーカーで企画開発をやってきた経験があって木工は得意だったので、自分で考えながらやるには木だな、と。」
もともと並んでペアで使用されていた速度計と加圧計は、製品化した際にも“2つでひとつ”になるよう、温湿度と時間が計れる「ウェザークロック」に。そして電圧計と電流計は、コンパクトな「テーブルクロック」に。どちらも元の文字盤はそのまま生かしつつ、時間や温度・湿度を示す数字入りダイヤルを、ガラス風防の内側にはめ込むことにしました。そんなふうにイメージは早くから固まっていたものの、モックアップづくりは想像以上に大変だったとか。
松田
「車両の部品って、ちょっとやそっとでは壊れないようにつくられていて、とくに鋼鉄製部品は外すだけでもひと苦労なんですよ。作業途中で何度も道具が足りなくなって、そのたび買いに出かける羽目になりました(笑)。仕事の合間を縫っての作業だったので、モックアップができるまでに2ヶ月ぐらいかかったでしょうか。あとはこれにぴったり合うような温湿度計のセンサーパーツを探すのにも苦労しましたね。」
そして、いくつかの試行錯誤ののち、実製品化に向け筐体づくりを担ってくれるパートナーを探すことにした松田さん。かつての職場の先輩から紹介を受けて会いに行ったのが、奈良県葛城市で工房「松葉木工」を営む、松葉正太郎さんでした。
松田
「松葉さんは、ものづくりへの熱意がすごいんです。家具をはじめ、障がい者向けの車椅子や知育玩具など、使う人の立場に立っていろんなものづくりをされていて、お会いしてすぐに意気投合しました。松葉さんも僕と同世代なんですが、廃車の部材を生かして、次の世代にまで愛されて使い続けられるようなものづくりをしたい、という思いを伝えると、とても共感してくださいました。」
設計図や試作品を前に、対話を重ねながら製品の完成度を高めていった2人。計器こそ廃材ですが、かといって筐体まで「いかにも廃材リサイクル」な雰囲気にはせず、きちんと本物志向で、というのが松田さんのこだわりでした。
そこで「ウェザークロック」にはやや木目を感じる黒檀色、「テーブルクロック」には上品なウォールナット色を選び、まるでオーディオのエンクロージャーのようにシンプルながら高級感のある仕上がりに。熟練木工職人である松葉さんの提案も随所に盛り込まれました。
松田
「電池を入れ替えるために背板が開く必要があるんですが、ここには“倹飩式(けんどんしき)”という伝統工芸の技法をご提案いただきました。戸ふすまのように、枠に溝を掘ることで背板をはめたり外したりできる仕組みですが、釘や蝶番を使わないので見た目にもすっきりとしています。また、どちらの型も下部が台座のような形状になっていて、安定感と重厚感を増しているのもいいですね。」
松葉さんという心強いパートナーを得た松田さん。これからは松場さんがつくった筐体を松田さんが受け取り、部品を入れて組み上げる、というリレー体制で製品を世に送り出していくとか。なにしろ計器類は廃車一車両につき1セットしかない希少なもの。ひとつひとつ、使う人の暮らしを思い浮かべながら丁寧に製作を行います。
松田
「いろんな紆余曲折があり、製品リリースまでに時間がかかってしまいましたが、こうしていい方と巡り合い、無事完成させることができて、本当によかったと感謝しています。テーブルクロックはコンパクトなので、仕事机や勉強机などお好きなところに移動させて使えますし、ウェザークロックは存在感たっぷりな調度品として楽しめると思います。こういう本物と暮らすことに価値や喜びを感じてくださる方に使っていただいて、次の世代にも受け継がれていく存在になってくれたらうれしいですね。」
Project Partner
お客様の夢や思いを形にするデザインスタジオです。今回の廃車再生プロジェクトに携わらせていただき、豊かな想像力とデジタルの創造力で、人と企業を結ぶ商品作りのお手伝いをさせていただきました。