株式会社クラシカ
中井 英夫
商空間のデザインを中心に活動しているデザイン設計事務所です。人と人、過去と未来をつなぐ、空間づくりを目指しています。古家を改修し、活用する事業にも取り組んでいます。
PRODUCTS
アミダナ ソファ
小粋なチェック柄と、やや無骨さの残る骨組み。どこかレトロポップなテイスト漂うこのソファに生かされているのは、地下鉄車両の網棚に使われていたブラケット(棚受け)です。店舗デザイナーと業務用家具メーカーがタッグを組み、大阪のベテラン職人の力も借りて作り上げた家具は、カジュアルなカフェや、インテリアにこだわるカップルの部屋をおしゃれに彩ってくれそうです。
※本ページの製品画像は試作品のため、実際の製品と異なる場合があります。ご了承ください。
大阪市を拠点に2018年に創業して以来、飲食店を中心に国内外の店舗デザインを手がけている株式会社クラシカ。代表の中井英夫さんにとって、インテリアに欠かせない家具の製造を引き受けてくれる大切なパートナーが、大阪で約70年の歴史を持つ業務用家具メーカー・株式会社キノシタです。そんなキノシタの営業マン・冨田健介さんのもとへ、中井さんから「廃車車両の網棚を使ってソファを作りたい」という相談が持ち込まれたのは、2021年6月半ばのことでした。
中井
「昨今、環境問題が叫ばれる中で、廃車プロジェクトのことを耳にした時、何かできることがあればトライしてみたいと思って、まずは僕ひとりで廃車見学会に参加してみたんです。部材を実際に見て、現実的に製品化できそうと思われたアイデアを4案提出した中で、採用されたのがこのソファでした。普段店舗デザインの仕事をしていることもあって、雑貨など小さなものよりは、家具や什器など空間づくりに関わるものをやりたい、という思いはありました。キノシタさんには、見学会の2週間後ぐらいにはファーストスケッチをお見せして相談を持ちかけていました。弊社の担当窓口をしてくれている冨田さんとは、もう2年ほどのお付き合いなんです。」
冨田
「うちは業務用家具の自社ブランドを展開しているほか、出雲と大阪に家具工場を持っていて、別注・特注家具の製造も得意としています。ただ、今回のように車両で使われていた部材を再利用するという経験はなかったので、初めて話を聞いた時は少し驚きました。とはいえ、中井さんからデザイン図面を見せていただいて、これならつくれそうだとも思いました。弊社の役割は、そのデザイン案をもとに、必要な強度や座り心地を考慮しながら家具の形に起こしていく、ということですね。」
中井
「驚いたのは、廃車見学会に行ったときの印象と、網棚を持ち帰って事務所で見たときの印象がずいぶん違ったことです。電車の中で見ている分にはそんなに大きく感じませんが、実際にはけっこう大きいですし、とにかく頑丈なんですよ。パイプも僕らが普段使うものに比べて肉厚で、金具の取り付けなんかも特殊な技術を使っていて、やっぱり公共交通に使われるものはさすがだなと、新たな発見がありました。」
冨田
「うちの社員もみんなびっくりしてましたよ(笑)。今回は、“せっかくなら大阪で作りたい”という思いがあって、弊社の大阪工場で製作させていただきました。ソファの張地をお願いしている生地屋さん、椅子張り職人さん、脚や補強金具を作ってくれる金物工場さん、台座の木枠を作ってくれる木工所さんなど、協力業者さん含めて、“オール大阪”です。廃材を使うということで、普段の仕事の進め方と違うので、最初は皆さん戸惑いもあったようですが、プロジェクトの趣旨を説明したら前向きになってくれました。やっぱり皆さん、ものづくりが好きですから、自分たちのつくったものが世に出て、ちゃんと注目を浴びるというのは嬉しいことなんです。」
こうして始まったソファの製作。チェック柄には地下鉄8路線のシンボルカラーが生かされ、赤い金属パイプ脚は車両が走っていた御堂筋線をイメージさせるなど、Osaka Metroらしいストーリーが随所に埋め込まれているのが魅力です。
中井
「網棚は網を外し、棚を支えているブラケットだけを使用することにしました。その他、表からは見えない台座のつくりやシート内部の構成、背もたれの丸みや傾斜角度などには、キノシタさんがお持ちのノウハウがしっかり生かされています。」
冨田
「クッション部分は厚みとのバランスから、座り心地とへたりにくさを考慮し、2種類のウレタン材を組み合わせて使っています。生地を張ってくれたのは、大阪でもかなりベテランの職人さんなんです。やはり職人さんの腕によって、同じ材料・同じ作り方であっても仕上がりに差が出ますので、今回は僕が一番信頼できる方にお願いしたつもりです。
中井
「張地に、地下鉄の路線図と同じ色を柄に使いたいというアイデアは最初からありました。Osaka Metroさんらしさを感じさせつつ、デザイン感度の高いものにしたかったので、チェックのピッチ(細かさ)は悩んだところです。あとは、このカラフルな柄が印刷しやすいPVCの中から、厚み・シボ・テクスチャーのバランスが最適な張地を選びました。」
冨田
「業務用でも使われることも考えると、耐久性の面でもPVCはすぐれていますね。汚れても水拭きが可能で、アルコールや次亜塩素酸水で消毒できることもメリットだと思います。また、ご要望があれば、生地を張り替えることも可能なんですよ。うちは普段から家具の補修もお受けしているので、そのあたりは強みですね。」
中井
「コンペに通って試作品づくりが始まってから、形になるまで3か月はかかったでしょうか。できあがった試作品を見た時は、関わってくださった方への感謝で一杯でしたね。コロナ禍もある中で、通常業務をこなしながら、こういうトライアルに時間を割いてくださる会社って少ないと思うんですが、冨田さんはいやな顔一つせず対応してくださって、キノシタさんにお願いして本当によかったなと思います。」
冨田
「それはやっぱり、僕自身が“面白いからチャレンジしてみたい”と思ったからですよね。中井さんみたいに一から考えてつくられるデザイナーさんとやる仕事は、苦労もあるけれどやりがいも大きいので……。完成した家具が収まった空間を見る時の達成感は格別ですよ。」
鉄道好きでなくても思わず惹かれてしまう、ミッドセンチュリーにも通じるテイストを持ったこのソファ。中井さんと冨田さんは、どんな使われ方を思い描いているのでしょうか。
中井
「自分自身が飲食店のデザインを仕事にしているので、やはりレストランやカフェで使っていただけて、いろんな人の目に留まったら嬉しいなという思いはあります。」
冨田
「あとは長屋をリノベーションして暮らしている、インテリア好きのカップルなんかにもおすすめしたいですね。」
中井
「ここれまでも食器を照明器具にしたりといった用途転用は手がけたことがありますが、今回は普通ではまず手に入らないものが使えたという意味で、レアな体験でした。今回のことがきっかけで、地下鉄を見る目も変わりました。地下鉄の網棚って、どれも僕たちが使わせていただいたのと同じなのかと思いきや、車両によってまた形状が違うんですね。自分自身、通勤で地下鉄を使っているんですが、いろんな意味でメトロ愛が深まったかな(笑)と思います。」
Project Partner
商空間のデザインを中心に活動しているデザイン設計事務所です。人と人、過去と未来をつなぐ、空間づくりを目指しています。古家を改修し、活用する事業にも取り組んでいます。
株式会社キノシタ 本社 営業部在籍。自社オリジナルブランド【ABORD】【Calore】【Baobab】の家具や特注オーダー家具の製作に携わり、飲食店やオフィス・商業施設などへ納入している。